老印の随筆
見覚えのある人がいて、
経験した覚えのある事があり、
訪れた覚えのある場所があり、
目にした覚えのある物がある――
今生が前世を夢見るのか、
それとも前世の夢が覚めぬまま続くのか。
早朝の仏堂の前、
小鳥がひたすらさえずり続ける。
片隅に古い一冊の本が置かれ、
一面塵に埋もれ、
扉頁には枯れ葉が一枚挟まり、
まるで眠りについたままの佇まい……
つなげぬは過去の縁、
捨てがたきは昔の夢、
覚められぬは現世の夢、
終わりなきは輪廻の流れ。
竹林に薫る風の薫り、
泥路に舞う塵の薫り、
孤灯に滲む墨の薫り、
夢に漂う秋の薫り。
余生は儚く短し、
自ら殻を築き縛られ、
殻の一室は小さくとも、
芥の中に須弥山を宿す……